読書感想文

『阿・吽』2巻について本気出して考えてみた/火をつけたのは誰か?最澄が見たものは?

おかざき真理『阿・吽』2巻収録の6話~9話は修業中の最澄の苦難を描いたエピソードだ。理想の仏教を目指した繊細で世間知らずの天才最澄は霊山比叡で小さな庵を築き、僅かな弟子たちともに「全てを救う教え」を実践しようとする。しかし清浄なはずの比叡で…

鹿島田真希『冥土めぐり』-理不尽の浅瀬で神と出会う

『冥土めぐり』は、主人公、奈津子の追憶をめぐり、その旅路の果てに「神」を見つける物語である。 Amazon 冥土の入り口 奈津子の人生は言いようのない「理不尽」の蓄積によって形作られていた。都落ちした上流家庭の出である奈津子には、現実を受け入れられ…

「体温のある死」―読書感想文・小川洋子『冷めない紅茶』

小川洋子の中編小説『冷めない紅茶』とは、不可思議な死と言う概念を日常から隔てる事なく、分けがたい人間の営みの一つとして捉え、抜き出した物語である。 死とは、隠しておきたいもの、風化していくもの、あるいは忌まわしいものとして、私たちの日常から…

「私とあなたの境界はどこにある?」―読書感想文・梨木香歩『沼地のある森を抜けて』

先祖伝来のぬか床にまつわる、摩訶不思議な存在の物語、と言うと、ささやかな心温まる内容を想像するかもしれないが、この『沼地にある森を抜けて』は、酷く内面的なテーマを扱っていながら、途方もない広大さを持つ物語である。 沼地のある森を抜けて (新潮…