『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』感想、「因習村ホラー」でなく「われわれの側」の邪悪と希望を描いた快作

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』ネタばれあり感想

進撃の巨人ファイナルシーズン主題歌「悪魔の子」に感じる危うさ 破壊願望のエモーショナルな肯定

アニメ版『進撃の巨人』ファイナルシーズンが放送中である。筆者も進撃の巨人は単行本3巻が出た辺りからの読者であり、一時期読むのは中断してたが、10年近く物語を追っていた者の一人だ。 既に物語の結末は知っており、個人的に納得できるところ・できない…

園子温『冷たい熱帯後』の食事描写から見る父権の崩壊と生の痛み

配給:日活 園子温監督作品『冷たい熱帯魚』は、1993年に起きた「埼玉愛犬家連続殺人事件」という実在の猟奇殺人事件を下敷きにしたホラーサスペンス映画である。作中ではペットショップのオーナーが大型熱帯魚店経営者に変更されているものの、遺体を肉…

呪いにより導かれる救済、運命の受容/「ヘレディタリー/継承」

あらすじ 祖母エレンが亡くなったグラハム家。過去のある出来事により、母に対して愛憎交じりの感情を持ってた娘のアニーも、夫、2人の子どもたちとともに淡々と葬儀を執り行った。祖母が亡くなった喪失感を乗り越えようとするグラハム家に奇妙な出来事が頻…

映画『マグダラのマリア』/魅力的で呪われてないユダ、伝道師マリア

"Mary Magdalene" FocusFeatures イエスの弟子で復活に立ち会ったとされる聖女マグダラのマリアが主人公の伝記映画。マグダラの地で抑圧された生き方をしていたマリアがイエスと出会い、その死後に教えを広める伝道に向かうまでの物語を描いている。 www.you…

『阿・吽』2巻について本気出して考えてみた/火をつけたのは誰か?最澄が見たものは?

おかざき真理『阿・吽』2巻収録の6話~9話は修業中の最澄の苦難を描いたエピソードだ。理想の仏教を目指した繊細で世間知らずの天才最澄は霊山比叡で小さな庵を築き、僅かな弟子たちともに「全てを救う教え」を実践しようとする。しかし清浄なはずの比叡で…

時代劇なのに「野火」より根源的な反戦映画/塚本晋也監督「斬、」(ざん)

フィリピンのレイテ島を舞台に飢餓に襲われる兵士の視点から戦争の不条理を描いた「野火」から4年、壮絶なテーマ性を引き継ついだ時代劇「斬、」(ざん)が公開された。 www.youtube.com あらすじ 舞台は長く続いた太平の時代が終わり、ちまたに「世直し」…

A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー 自分と出会いなおす死(ネタバレ)

画像引用元 http://www.ags-movie.jp/ ホラー映画じゃない ア・ゴースト・ストーリー見てきました。「幽霊の切ない記憶の旅」というコピーだけで見に行く価値があると思ったのですが、想像していたより遥かにスケールが大きく悲しいというより、すべてが腑に…

鹿島田真希『冥土めぐり』-理不尽の浅瀬で神と出会う

『冥土めぐり』は、主人公、奈津子の追憶をめぐり、その旅路の果てに「神」を見つける物語である。 Amazon 冥土の入り口 奈津子の人生は言いようのない「理不尽」の蓄積によって形作られていた。都落ちした上流家庭の出である奈津子には、現実を受け入れられ…

映画感想「希求としての家族」― 園子温『紀子の食卓』

背中を走る不快感、顔が引きつる様な違和感が、この「食卓を囲む家族」という形から発している。だか、この偽りの食卓の中には、彼らの見出した願いが嘘の役割を通じて語られる。「紀子の食卓」、この4人の囲む食卓には何層にも重ねられた嘘に、それぞれの希…

「体温のある死」―読書感想文・小川洋子『冷めない紅茶』

小川洋子の中編小説『冷めない紅茶』とは、不可思議な死と言う概念を日常から隔てる事なく、分けがたい人間の営みの一つとして捉え、抜き出した物語である。 死とは、隠しておきたいもの、風化していくもの、あるいは忌まわしいものとして、私たちの日常から…

「私とあなたの境界はどこにある?」―読書感想文・梨木香歩『沼地のある森を抜けて』

先祖伝来のぬか床にまつわる、摩訶不思議な存在の物語、と言うと、ささやかな心温まる内容を想像するかもしれないが、この『沼地にある森を抜けて』は、酷く内面的なテーマを扱っていながら、途方もない広大さを持つ物語である。 沼地のある森を抜けて (新潮…

モノノ怪『のっぺらぼう』考察おまけ「夢幻の庭の花」

「のっぺらぼう」の冒頭と終幕に現れるこの障子の図像は、どこか不気味で、一つ目の化け物のようにも見えます。 この図像は「海坊主」の図像でも検証しましたが <a href="http://sayokokarikari.hatenablog.com/entr…

モノノ怪考察おまけ・「海坊主」の図像モチーフ

「海坊主」そらりす丸吹き抜けの壁絵 下部分 クリムトの絵画が組み合わされているように見えるので検証してみました。 まず中央の男女が抱き合っているシーンですが、 ベートーヴェン・フリーズ≪第3場面-歓喜・接吻≫1902年 高さ216cm ガゼイン・塗料・漆喰…

モノノ怪『のっぺらぼう』考察後編・「他者としての自己、逃避の中の恋」

「のっぺらぼうは、なぜ、私を助けてくれたのでしょう?」 「救われたなどと、思っているのか。 …しいて言うなら、 恋でも、したんじゃないですかね、貴女に。 叶うわけなどないのに、哀しき、モノノ怪だ…」 「哀しき…モノノ怪…」 これは、一体どういう意味…

モノノ怪『のっぺらぼう』考察前編・「自分殺しと心の牢獄」

下手人・お蝶 「日置藩藩士佐々木和正一家惨殺の一件、これより評定を言い渡す。当主和正が妻、お蝶、市中引き回しのうえ、磔獄門と処す。」 奉行の評定の声が朗々と響く。鶯の冴えた鳴き声が聴こえる庭には、赤い着物に白い顔の女性がひとり立ち尽くしてい…