2014-01-01から1年間の記事一覧

映画感想「希求としての家族」― 園子温『紀子の食卓』

背中を走る不快感、顔が引きつる様な違和感が、この「食卓を囲む家族」という形から発している。だか、この偽りの食卓の中には、彼らの見出した願いが嘘の役割を通じて語られる。「紀子の食卓」、この4人の囲む食卓には何層にも重ねられた嘘に、それぞれの希…

「体温のある死」―読書感想文・小川洋子『冷めない紅茶』

小川洋子の中編小説『冷めない紅茶』とは、不可思議な死と言う概念を日常から隔てる事なく、分けがたい人間の営みの一つとして捉え、抜き出した物語である。 死とは、隠しておきたいもの、風化していくもの、あるいは忌まわしいものとして、私たちの日常から…

「私とあなたの境界はどこにある?」―読書感想文・梨木香歩『沼地のある森を抜けて』

先祖伝来のぬか床にまつわる、摩訶不思議な存在の物語、と言うと、ささやかな心温まる内容を想像するかもしれないが、この『沼地にある森を抜けて』は、酷く内面的なテーマを扱っていながら、途方もない広大さを持つ物語である。 沼地のある森を抜けて (新潮…

モノノ怪『のっぺらぼう』考察おまけ「夢幻の庭の花」

「のっぺらぼう」の冒頭と終幕に現れるこの障子の図像は、どこか不気味で、一つ目の化け物のようにも見えます。 この図像は「海坊主」の図像でも検証しましたが <a href="http://sayokokarikari.hatenablog.com/entr…

モノノ怪考察おまけ・「海坊主」の図像モチーフ

「海坊主」そらりす丸吹き抜けの壁絵 下部分 クリムトの絵画が組み合わされているように見えるので検証してみました。 まず中央の男女が抱き合っているシーンですが、 ベートーヴェン・フリーズ≪第3場面-歓喜・接吻≫1902年 高さ216cm ガゼイン・塗料・漆喰…

モノノ怪『のっぺらぼう』考察後編・「他者としての自己、逃避の中の恋」

「のっぺらぼうは、なぜ、私を助けてくれたのでしょう?」 「救われたなどと、思っているのか。 …しいて言うなら、 恋でも、したんじゃないですかね、貴女に。 叶うわけなどないのに、哀しき、モノノ怪だ…」 「哀しき…モノノ怪…」 これは、一体どういう意味…

モノノ怪『のっぺらぼう』考察前編・「自分殺しと心の牢獄」

下手人・お蝶 「日置藩藩士佐々木和正一家惨殺の一件、これより評定を言い渡す。当主和正が妻、お蝶、市中引き回しのうえ、磔獄門と処す。」 奉行の評定の声が朗々と響く。鶯の冴えた鳴き声が聴こえる庭には、赤い着物に白い顔の女性がひとり立ち尽くしてい…